自然界では、環境が劣化すると生物はそこから移動することにより難を逃れることができます。しかし、観賞魚用の水槽では、避難はできません。
このため水槽には、生育環境としての水質を維持するため、
アンモニアを硝酸に変える濾過装置
有機物を含む懸濁物を除去するプロテインスキマー
病気の原因となる微生物を減少させる紫外線殺菌灯
等が取り付けられています。しかし、これらの装置を設置しても水質はいずれ変化してしまいます。
無機化学成分的にみると、硝酸の蓄積、燐酸の蓄積、およびカルシウムとマグネシウムの減少等が生じます。そうなると、海水のpHやアルカリ度の低下をもたらします。
特に硝酸は、pH低下のみだけではなく、多くなると生育障害をもたらします。
一方、有機化学的観点からみると、生物を長期間飼育することにより、水槽内に残餌や飼育生物の排泄物、および苔類やその死骸等が堆してきます。
これらは、水槽を汚すのみでなく、魚病の原因となる、細菌や繊毛虫類が発生しやすい環境をつくります。
そのため、これらの濃度を下げるために水換えが必要になります。
水換えは生物の種類や飼育数によって異なりますが、すべてを一度に取り替えてしまうと、水質が急激に変化し、かえってさかなたちに悪影響を及ぼすため、
水換え量は1/4~半分程度、頻度は2週~4週に1回程度が良いと考えられます。しかし、少量ずつ小まめに交換するほうが生物に対してやさしいと言えます。
無脊椎動物を中心に収容した水槽では、魚を中心に収容した水槽よりも頻繁に換水をしたほうが良いという試験結果があります。たとえば、アコヤガイでは、換水率が高いほど、また数が少ないほど、体重が増化するという結果が得られており、換水量は目的によって異なってきます。このような日常管理は“現状を維持する”あるいは“現状以上の状態にする”ためのものであり、設備・装置だけに頼って管理を怠ること、さかな等に過大なストレスを与えてしまいます。
少しメンテナンスを怠ってしまうと、コケが生えてきます。コケはなかなか退治するのが難しく、著しく美観を損ないます。また、長い間飼育している水槽では、赤いベタついたような苔が岩などに着きます。さらに綺麗な蛍光色に近い緑の苔なども生えます。これらの苔について観察してみました。
- 観察したコケ
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サンプルとして、通常の魚飼育水槽で発生する次の2種類を選定しました。
●赤色のベタついた感じのコケ
●鮮やかなグリーン色の綺麗なコケ
- 観察にあたっての処理
- それぞれのサンプルをシャーレに採取し、12時間明暗周期で蛍光灯を照射してから観察しました。
- 観察(培養)結果
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<コケ群集の観察>
赤と緑のそれぞれのコケは、シャーレのガラス面に強固に付着していました。色は、両方のサンプル共に、概ね赤紫色でしたが、多くの場合、赤紫色のコケ群集の縁辺部は緑色を帯びています。さらに、これらのコケ群集は、時間の経過と共に緑色になってきました。
- <顕微鏡での観察>
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これらのコケ群集は、すべてトリコーム(藍藻に特異的な、糸状に連なった細胞の集まり)を骨格としています。これらのトリコームは、螺旋状ではなく直線状で分枝も認められませんでしたが、個々の細胞間にはくびれがありました。
トリコームは無方向性に絡み合って群体となり、単体あるいは束状の群体とはなりませんでした。
これらの細胞は、コケ群集の色にかかわらず、すべて青緑色です。トリコームは周囲に粘液物を出し、ここに、いろいろな物が捕捉されコケ群集を形成していきます。この粘液による捕捉物中最も多かったのは、ある種の集塊で、赤色あるいは緑色をしています。 - まとめ
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これらのサンプルは、群体の様子、不分枝直線状のトリコーム、細胞間のくびれ等の特徴から、両者共、藍藻門、藍藻綱、ネンジュモ目、ネンジュモ科の藻類とみられます。
これらのサンプルのコケは、同じ色を持つ近縁種が主要コケ形成種であるにもかかわらず、コケとしての色に違いがあり、かつ、時間の経過にともなう色の変化が認められました。
このコケ群集の色は、コケ群集に含まれる藍藻以外の粘液被捕捉物の色に依存していると思われます。
自然の海の中は、うまくバランスがとれています。
そのバランスを単純化して窒素の流れにしてみます。
魚や動物プランクトンは糞や尿としてアンモニア、尿素、アミノ酸などの形で窒素を排出します。そして彼らの糞や死骸などに含まれる蛋白質やアミノ酸は細菌によって代謝、分解され無機態の窒素/アンモニアとなります。
一方、海水中に放出された無機態の窒素は、今度は海藻や植物プランクトンの栄養源となり、プランクトンなどは、魚の餌になり、連鎖のバランスがとれています。
一方水槽の中では、餌から持ち込まれる有機態の窒素は、魚によって水槽中に糞や尿の形で排出され、死骸、食べ残しの餌などは細菌により無機態の窒素になります。しかし、水槽中には多くの場合、自然界でみられるように、それら窒素を利用する海藻が少なく、水槽内の窒素が増大していきます。コケとなる藻類の種は生物に付着し水槽内に持ち込まれたり、胞子の形で空気中より侵入しますが、蓄積された窒素は藻類の豊富な栄養源となり、コケが繁殖することになります。自然界で成り立っている平衡が破壊された結果、コケの繁殖が起こる訳です。このアンバランスを解消するためには、定期的な換水が必要になります。
正しく病気を知ることは、治療や予防にとってとても大切なことです。特に水槽の中で生きるさかなにとって、キーパーの正しい知識の有無は、生死に関係してきます。可愛いさかなの為に、病気の事を考えてみましょう。
さかなの体の表面に白いつぶつぶが出て、ひどい場合にはさかなが死んでしまうのが白点病です。
一度や二度、みなさんも経験があると思います。
このつぶつぶは白点虫という虫(膜口類繊毛虫 Cryotocaryn irritans)です。これがからだに付着すると、上表層が損傷したり剥離して、からだの浸透圧調整がうまく機能しなくなります。また、エラにまで付着すると白点虫を排除しようとして粘液が過剰に分泌されて、呼吸がうまくできなくなり、死んでしまうこともあります。
その白点虫を良く調べてみましょう。
数時間おきに観察していると、昼間一時的に白点が無い時があります。直ったと思うのですが、夕方から夜にかけて、また白点が前よりも多く付着していたりします。
これは白点虫が時間により、さかなに付着している時期と、水槽の底にある岩や砂に付着している時があるからです。
白点虫はさかなに侵入すると細胞分裂することなく0.5mmまで成長していきます。これが白く見えるつぶつぶです。この時期には、肉眼で白点病だと確認できるわけです。
目に見える大きさまで成長した白点虫は、今度は夜から朝にかけてさかなから離れて水槽の岩や底砂等に付着します。
白点虫はさかなの体に付着して、目に見える大きさまで成長するまでに3~4日かかりますが、その大きさになると夕方から朝にかけてさかなから離れて、底に辿り着くわけです。
辿り着いた白点虫は、岩などに付着した後、硬い殻(シスト)を形成して4~14日間かけて内部で細胞分裂していきます。この間に1つの白点虫は2000~3000にまで増殖します。殻の中での成熟が終わると、今度は夜間から早朝にかけて遊泳性のある感染幼虫を放出して、この幼虫がさかなにまた付着することになります。
この感染幼虫は1~2日以内にさかなに付着しないと死んでしまします。また、この時期に白点病の薬を水槽に入れることで、効果的に白点虫を殺すことができます。
しかし、岩や砂に付着している時期は、硬い殻があるため薬で死滅させることができません。
このシストが数ヶ月生きのびたと言う報告もあります。
- 予防について
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白点虫は塩分濃度が低いと正常に発達できないことから、低塩分でさかなを飼育すれば予防できるという考え方があります。しかし白点虫の成長を抑えられる低塩濃度は、1.0121で水温25℃以下なので、通常の最適な塩分濃度とは大きく異なり、現実的な予防方法にはなりません。
研究により、白点虫が水槽の底でシストを形成している時期に溶存酸素が少ないと細胞分裂が制限されて、感染虫が大幅に減少することもわかっています。
夏場の溶存酸素が少ない時期は発症がすくなく、溶存酸素が多くなる秋にかけて発症が増えるのは、これが原因の一つだと考えられます。
また、掃除をすると白点病が発症し易いのも、水槽の底部を撹拌してシストへの酸素の供給が増え、細胞分裂が活発になるからだと考えられています。
逆にサンゴ水槽で多いベルリン方式では、底面濾過などと違い底の水流が無いため、白点病がでにくい環境とも言えます。 - 薬の使用について
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銅イオンは白点病の薬として良く使用されています。
銅イオンが水中を浮遊している感染虫に体して殺傷効果があるからです。しかし、さかなの身体に付着している状態や底でシストになっている状態では効果がありません。
また、銅イオンは海中ではとても不安定で、化学変化すると殺傷効果が無くなってしまいます。ではなぜ銅イオンはなぜ効果があるのでしょうか。
生物の体内では、栄養成分を分解したり合成して生命を維持しています。この時に大切な働きをするのが酵素です。
原始的な生物ほど、この酵素の働きが重要になります。逆にホ乳類に近づくほど、酵素が不足しても、生命の維持は可能になります。
銅イオンはこれら酵素を壊すため、感染虫の生命維持ができなくなります。銅イオンは、少ないと生命維持が可能になり、多すぎるとさかなにダメージを与えてしまいます。 - 白点病がでたらどうするか
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換水による方法■鱗や目などに感染しておらず、身体に付着しただけなら、体力があれば再感染を防げば良いことになります。この方法としては、感染してしまったさかなを別の容器に移して、白点虫が身体から離れる3~4日間、夕方から早朝にかけての時間を避け、毎日容器ごと海水を変えてあげれば、身体から離れた白点虫が再感染することはなくなり、これで治療できることになります。
銅イオンによる方法■感染虫が浮遊している間に銅イオンを投与する必要があります。また、適正量の銅イオン投与が必要で、その濃度を維持する必要があります。
銅イオンは感染虫に効果があるだけではなく、濾過バクテリアや水槽内のすべての生物に影響するので、使用量と使用期間を間違えると、さかなまでもダメージを受けてしまうので、十分注意して投与を行ってください。適性量についてはさかなの種類やサイズによって異なります。 - 最後に
- さかなの身体に白点虫を発見したら、すでに水槽の底にもシストが存在していると考えてください。そして、直ぐ対応してください。1つのシストは2000~3000もの感染幼虫に増殖するので、早期発見が白点病の最重要事項になります。
一般に海水魚はpH8.0~8.5が良好な飼育環境であると言われています。しかし、pHが低下しても場合によっては耐えることができます。
pH低下の原因は、バクテリアによる硝酸の生成や、魚の呼吸による炭酸ガスの発生、リン酸の蓄積や結合によりできる沈殿物などがあげられます。
この中で、魚の数が増えたり、エアレーションが不足すると、水中の二酸化炭素濃度が高くなってpHが低下します。このため魚は溶存酸素を利用することができなくなり、窒息状態になって死亡してしまいます。
具体的な例では
■フグ pH8.5→6.5で酸素消費量の低下。
■鯛、稚魚 pH中性→6.4で死亡
一方pH低下が炭酸ガス以外による場合、pHは徐々に低下し魚も環境に順応し、かなり低いpHでも普通の魚は耐えられ、時として、pH6.0にもなることがあります
魚たちは、急激な変化等には弱いですが、緩やかな変化であれば順応できる生物も多くいます。
逆に、海水のpHが上昇した場合は、変化したアンモニアが中枢神経系に影響し、生育阻害が生じ、最後には死にいたります。
つねにエアレーションに気をつけ、定期的な換水により最適なpHを保つ様に心がけましょう。